オタフクソースが海外工場

 中国新聞が’11/10/18付で伝えるところによると……

オタフクソース初の海外工場

 お好みソースなど製造のオタフクソース(広島市西区)は17日、中国と米国にソース類を製造する新工場を建設すると明らかにした。同社の海外工場は初めて。ともに2013年の稼働を目指す。国内のソース市場が伸び悩む中、海外で生産販売を強化する。

 日本食ブームが続く米国、経済発展に伴い外食産業の成長が見込まれる中国で、業務用ソースの需要が増えるとみて工場建設を決めた。円高による為替リスクを回避するとともに、福島第1原発事故に伴う中国向けの輸出規制の問題も解消できるとしている。

 10月1日付で国際事業本部を新設。中国での製造販売を担う中国事業部と、米国にある販売子会社が、それぞれ工場建設の準備を進めている。建設地、事業費などは未定で年明けにも概要を決める。中国では現地販売会社も設立する。

 現在は米国、韓国、台湾などにソース類を輸出している。海外でお好み焼きを実演販売するなどして、日本食文化の啓発活動に力を入れている。

 だそうだ。

 現フランス大統領のサルコジが昔、大の相撲好きのシラクと大統領選を争っていた時、シラクとの違いを徹底する中で彼は相撲についても「あんなのは長い髪を結った太った男たちがやる、決して美しいとは言えないスポーツにすぎません」と発言した。これは(少なくとも日本では)結構なニュースになったが、批判を受けてサルコジは「いや、日本は好きだよ。鉄板焼きも好きだしね」みたいなフォローをした……ということがあった。
 この時に寿司だとか天ぷらだとかではなく鉄板焼きを挙げたのが印象的だった。
 海外では焼鳥やラーメンも代表的な「日本料理」と認識されている。

 このあたり、日本ではさほど意識はされてないよね。
 しかし鉄板焼き(抽象的だよなあ(^O^))にしろ焼鳥にしろラーメンにしろ、確かに日本独自の料理であって、これを「日本料理」と呼べない理由はないし、現に外国の人がそう認識することも不思議ではない。

 で、おそらくお好み焼きもそうだ。

 お好み焼きがどの程度売れるかはわからないけれど、国内でもこれだけ支持されている食べ物が海外では一切評価されないということはないだろう。

 となると結局、どれだけお好み焼きを広げることができるかがポイントになる。
 どれだけ需要があるかではなく、どれだけ需要を作りだすことができるかということ。

 オリバーソース社長の道満雅彦氏は『麺の世界』という専門誌のインタビューでインタビュアーの奥山忠政氏に対してこんなことを話している。

道満 ……じつはウチも十数年前韓国にお好み焼きの店を7店出したことがあるんです。ソウルの学生街・新村に4店、大邱に1店などです。3~4年やりましたけど、いろいろ問題があって撤退しました。もしあのまま続けていたら、韓国の若い人にソースの味が根深く刷り込まれて、今ごろちがう方向になっていたかもしれませんね。
奥山 海外でたこ焼きやお好み焼きをこまめに普及させていく努力を重ねていけば必ず結果が出てくると思います。
道満 本腰を入れてこのソース文化を広めようという、やる気のある人が出てきたらほんとうに広まると思う。現地の食文化に合った新しい味覚の開拓も含めて。

 これも実際にやってみた経験から、本腰を入れてちゃんとやれば海外に新たな市場を作ることは可能だという確信が窺える。

 だがしかし、オリバーソースは海外には行かない。
 その理由はこうだ。(上記インタビューの直後)

道満 ……ただね、広げることによってわれわれにメリットがあるかといえば、ひじょうに疑問です。
奥山 どういうことですか?
道満 海外で現地生産されてしまうということです。醤油や味噌とちがってそんなにノウハウが要るもんでないし、ひょっとしたら自分のクビを絞めることになるかもしれない。逆に、今なぜ海外で生産しないかって言われるんですけど、これだけ市場価格が下がってしまうと、日本に持ってきても採算が合わないからです。

 海外市場が広がることと自社のソースの売上げとの関連について、ずいぶんと悲観的な見解を持っている。海外生産(現地生産ではなく)についても、投資に見合うメリットはないという認識。

 今回のオタフクソースの中国、アメリカでの現地生産(向こうで作って日本に輸入するのではなく、現地で作って現地で売る)は、この見解と正反対のものだ。

 まちがいなく、規模の問題というのはあるのだろう。
 おそらくこれは、日本でのソースシェア1位2位を争う規模の企業だからできるスケールメリットだ(2006年で20.6%)。
 オリバーソース社長の見解はあまりに保守的に見えるが、これはこれで、この規模の企業(同2.4%)としては体力的な問題からいっても妥当なものなのだろう。
 オタフクソースはソースメーカーとしては後発ながら、全国でお好み焼き教室を開き、お好み焼き店開業の支援をし、シェアを獲得することと同じくらい市場そのものを広げることに熱心に取り組んできた企業だ。
 そういう企業精神と企業としての規模が、今回の決断につながったのだろう。

 オリバーソースの道満社長の言うとおり醤油に比べてソースは作りやすいんだろうし(ソース会社の社長が言ってるわけだから)、そうなると社長の言うとおり簡単に真似されちゃうんだろうけど、やはり「ブランド」というのは大きいと思う。しかも「トップブランド」になることは大きい。

 もちろん簡単な道ではないことは間違いない。お好み焼き(あるいはたこ焼き)というメニューそのものの普及と自社のソースの普及を同時に図らなくてはいけない。地道な努力だ。

 しかしそれが実を結んだとき、「オタフク」はお好み焼きソースの世界のトップブランドに……、いやおそらくそうなれば、キッコーマンのようにお好み焼きソースの代名詞になるかもしれない。

 オタフクソースのチャレンジ精神を応援したい。